塩田武士おすすめ小説5選! 元新聞記者が描く骨太ミステリーの世界

作家別おすすめ

元新聞記者から作家へと転身した塩田武士さん。デビュー作『盤上のアルファ』から最新作『存在のすべてを』まで、どの作品も読み応えのある骨太な物語が魅力です。本屋大賞に3度もノミネートされるなど、その実力は折り紙付き。今回は塩田武士さんの代表作から特におすすめの5作品をご紹介します。緻密な取材に基づくリアリティある世界観と、心を揺さぶる人間ドラマを堪能してみませんか?

塩田武士とは? 元新聞記者から人気作家へ

塩田武士の経歴と作風

塩田武士さんは1979年兵庫県生まれ。関西学院大学を卒業後、神戸新聞社に入社し記者として活躍しました。大学在学中から小説家を志していたものの、なかなか芽が出ず、新聞記者としての道を選んだそうです。

神戸新聞社では将棋担当記者を務めた経験もあり、その取材経験を活かして書き上げた『盤上のアルファ』で2010年に小説現代長編新人賞を受賞。見事なデビューを飾りました。2012年に神戸新聞社を退社し、専業作家として本格的に執筆活動をスタート。以降、多彩なジャンルで読者を魅了し続けています。

塩田さんの作品の最大の魅力は、新聞記者としての経験を活かした圧倒的なリアリティと取材力にあります。登場人物の心理描写も繊細で、読者を物語の世界へと引き込む力に長けています。将棋、出版業界、アニメ業界など、様々な世界を舞台に骨太なストーリーを展開する幅広さも特徴です。

本屋大賞ノミネート3度の実力派

塩田武士さんは本屋大賞に3度もノミネートされている実力派作家です。2017年には『罪の声』で第14回本屋大賞第3位に輝き、2018年には『騙し絵の牙』が第6位にランクイン。そして2024年、『存在のすべてを』で再び第3位に選ばれました。

全国の書店員が選ぶ本屋大賞でこれだけ評価されるのは、読者を引き込む物語の力と、作品の完成度の高さを証明しています。また『罪の声』は週刊文春ミステリーベスト10で2016年国内部門第1位、第7回山田風太郎賞も受賞するなど、ミステリー作品としても高く評価されています。

塩田武士おすすめ小説5選

塩田武士さんの魅力あふれる作品の中から、特におすすめの5作品をご紹介します。各作品の情報を表にまとめましたので、参考にしてみてください。

タイトル出版社発売日参考価格受賞歴・特徴
『罪の声』講談社2016年8月3日
(文庫:2019年5月15日)
1,012円(税込・文庫)第7回山田風太郎賞受賞
週刊文春ミステリーベスト10 2016国内部門第1位
第14回本屋大賞第3位
『存在のすべてを』朝日新聞出版2023年9月7日2,090円(税込)2024年本屋大賞第3位
『盤上のアルファ』講談社2011年1月
(文庫:2014年2月14日)
704円(税込・文庫)第5回小説現代長編新人賞受賞作
将棋ペンクラブ大賞受賞
NHKでドラマ化
『騙し絵の牙』KADOKAWA2018年
(文庫:2019年11月21日)
792円(税込・文庫)2018年本屋大賞第6位
大泉洋主演で映画化
『デルタの羊』KADOKAWA2020年10月7日1,870円(税込)アニメ業界を舞台にした作品

『罪の声』- 昭和の未解決事件を描いた傑作ミステリー

『罪の声』は、昭和の未解決事件「グリコ森永事件」をモチーフにした作品です。京都でテーラーを営む曽根俊也が父の遺品からカセットテープを見つけ、そこに録音された幼い頃の自分の声が、31年前の「ギン萬事件」で使われた恐喝テープと同じものだったことから物語が始まります。

一方、大日新聞の記者・阿久津英士も、この未解決事件を追い始めます。二人の視点から物語が進行し、事件の真相に迫っていく展開は息をつく暇もないほど。昭和の事件を現代から掘り起こしていく構成が見事で、読み始めたら止まらなくなる一冊です。

映画化された話題作

『罪の声』は2020年に小栗旬さん、星野源さん共演で映画化され、第44回日本アカデミー賞で12冠を達成した話題作です。原作の持つ緊張感と謎めいた雰囲気が、映像でも見事に表現されました。

綿密な取材に基づくリアリティ

本作の最大の魅力は、実在の事件をベースにしながらも、フィクションとして練り上げられた緻密なストーリー展開です。塩田さんの記者としての経験が活かされた取材力と描写力が光ります。事件の背景や当時の社会情勢も丁寧に描かれており、昭和の空気感が伝わってくるようです。

「週刊文春ミステリーベスト10」で2016年国内部門第1位に選ばれ、第7回山田風太郎賞を受賞したのも納得の完成度。ミステリーファンならずとも、読み応えのある一冊です。

『存在のすべてを』- 2024年本屋大賞第3位の感動作

2023年に発表された『存在のすべてを』は、2024年本屋大賞第3位に選ばれた塩田武士さんの最新作です。平成3年(1991年)に発生した二児同時誘拐事件を軸に、30年後の現在から事件の真相に迫る物語です。

物語は厚木市内の家具販売会社経営者の息子・立花敦之と、横浜市の健康食品会社創業者の孫・内藤亮の二人が同時に誘拐されるところから始まります。立花少年は無事に保護されますが、内藤少年は行方不明に。しかし事件から3年後、内藤亮は突然祖父母の家に帰ってきます。その後、亮は新進気鋭の画家・如月脩として活躍するようになりますが、誘拐された3年間について口を閉ざしたままでした。

事件から30年後、当時の担当刑事の葬儀に参列した新聞記者の門田は、内藤亮の現在を知り、未解決のままだった事件の謎を追うことを決意します。

30年前の誘拐事件の真相

『存在のすべてを』の魅力は、事件そのものよりも、事件に巻き込まれた人々の人生を丁寧に描いている点にあります。誘拐された少年はどのように成長し、周囲の人々はどう変わっていったのか。30年という時間の流れの中で、それぞれの「存在」が浮き彫りになっていきます。

多面的な視点で描かれる人間ドラマ

本作は、新聞記者の門田、内藤亮を少年時代から知る土屋里穂、亮と関わるようになる写実画家夫妻など、様々な視点から物語が展開します。それぞれの視点から見える「真実」が少しずつ重なり合い、事件の全容が明らかになっていく構成は見事です。

特に注目したいのは、絵画制作における問題を追求している点。「大事なのは存在」という芸術論が、物語のテーマとも重なり合い、深みを増しています。ミステリーとしての面白さだけでなく、芸術家小説としての魅力も兼ね備えた作品です。

『盤上のアルファ』- 将棋に挑む男を描いたデビュー作

『盤上のアルファ』は塩田武士さんのデビュー作で、2010年に第5回小説現代長編新人賞を受賞しました。神戸新報の県警担当記者・秋葉隼介が文化部に左遷され、将棋担当を命じられるところから物語は始まります。

そんな秋葉の家に、突然転がり込んできたのは、酒の席で大喧嘩をした同い年の男・真田信繁。33歳にして背水の陣でプロ棋士を目指す真田と、記者として彼の挑戦を記録することになった秋葉の物語が、熱く、時に笑いを交えて描かれています。

記者時代の経験を活かした作品

塩田さん自身が神戸新聞社で将棋担当記者を務めた経験があり、その体験が作品に活かされています。将棋界の雰囲気や棋士たちの姿が生き生きと描かれており、将棋に詳しくない読者でも楽しめる工夫がされています。

夢を追う熱さと友情の物語

本作の魅力は、年齢的にはもう遅いと言われながらも夢を追い続ける真田の姿と、彼を見守りながら自分自身も成長していく秋葉の友情物語にあります。勝負の世界の厳しさと熱さが伝わってくる一方で、人間ドラマとしても読み応えがあります。

将棋ペンクラブ大賞も受賞し、2019年にはNHKでドラマ化もされた人気作です。塩田武士さんの原点として、ぜひ読んでおきたい一冊です。

『騙し絵の牙』- 出版業界を舞台にしたエンターテイメント

『騙し絵の牙』は出版業界を舞台にしたエンターテイメント作品です。不況にあえぐ出版業界において、大手出版社「薫風社」では社長急逝による次期社長争いが勃発。専務の東松は大改革を開始し、雑誌が次々と廃刊の危機に追いやられていきます。

カルチャー誌「トリニティ」の編集長・速水は、雑誌存続のために奔走しますが、次々に新企画を提案してもどれも成果が振るわず、ついに薫風社を退社することになります。そこから速水の逆襲が始まるのですが…。

大泉洋主演で映画化された人気作

本作の主人公・速水は、俳優の大泉洋さんを当て書きして書かれたキャラクターです。実際に2019年に映画化され、大泉洋さんが主演を務めました。「天性の人たらし」である速水が、次々と降りかかる困難に立ち向かう姿がコミカルかつ悲哀たっぷりに描かれています。

出版社の内幕と人間模様

出版業界が抱える「闇」や雑誌の編集長という仕事の実態を、鋭い視点で切り取った作品です。業界の内幕を知ることができる面白さもありますが、それ以上に、様々な思惑を持った人々の駆け引きや、夢と現実の狭間で揺れる人間模様が見事に描かれています。

2018年本屋大賞第6位にも選ばれた人気作で、塩田武士さんの多彩な才能を感じられる一冊です。

『デルタの羊』- アニメ業界の熱い挑戦を描く

『デルタの羊』は、日本のアニメ業界を舞台にした作品です。アニメ製作プロデューサーの渡瀬智哉は、長く夢見てきたSF小説『アルカディアの翼』のテレビアニメ化に着手することになります。しかし、業界にはびこる様々な「課題」が立ちはだかり、窮地に追い込まれてしまいます。

一方、フリーアニメーターの文月隼人は、とある理由で「前代未聞のアニメ」に参加することを決めますが…。

日本アニメの現状と課題

本作では、日本のアニメ業界が抱える問題点やビジネスの実態が、プロデューサーとアニメーター、それぞれの視点から描かれています。低予算、タイトなスケジュール、海外との競争など、アニメ制作の裏側にある厳しい現実が浮き彫りになります。

情熱を注ぐクリエイターたちの物語

厳しい現実の中でも、アニメに情熱を注ぐ男たちの姿が熱量をもって描かれています。一つの作品を作り上げる大変さとそこに懸ける強い思いが伝わってくる、アニメ愛あふれる力作です。

アニメファンはもちろん、創作に関わる全ての人に読んでほしい一冊です。

塩田武士作品の魅力とは

圧倒的なリアリティと取材力

塩田武士さんの作品最大の魅力は、圧倒的なリアリティと取材力にあります。新聞記者としての経験を活かし、描かれる世界の細部まで緻密に調査・取材した上で物語を構築しています。

特に『罪の声』では、実際の事件を題材にしながらも、独自の視点で物語を構築する力量が高く評価されました。読者は塩田さんの作品を通して、普段知ることのできない世界の内側を覗き見ることができます。

また、登場人物の心理描写も繊細で、リアルな人間ドラマが展開されるのも魅力の一つ。単なるエンターテイメントを超えた、深みのある作品に仕上がっています。

多彩なジャンルを手がける幅広さ

塩田武士さんのもう一つの魅力は、多彩なジャンルを手がける幅広さです。将棋を題材にした『盤上のアルファ』から、出版業界を描いた『騙し絵の牙』、アニメ業界を舞台にした『デルタの羊』まで、様々な世界を舞台に物語を紡ぎ出しています。

どの作品も、その世界ならではの専門用語や慣習を丁寧に説明しながら、読者を物語の中へと引き込んでいきます。知らない世界を知る面白さと、人間ドラマの普遍性が見事に融合しているのです。

また、『罪の声』や『存在のすべてを』のような社会派ミステリーから、『盤上のアルファ』のような青春小説的要素を持つ作品まで、ジャンルの幅も広いのが特徴です。どの作品も塩田武士さんならではの視点と筆力で描かれており、読む価値があります。

まとめ:塩田武士の世界を楽しもう

元新聞記者という経験を活かした圧倒的なリアリティと取材力で、読者を物語の世界へと引き込む塩田武士さん。本屋大賞に3度もノミネートされるなど、その実力は折り紙付きです。

将棋、出版、アニメなど様々な世界を舞台に、人間ドラマを鮮やかに描き出す塩田さんの作品は、どれも読み応えがあります。ぜひ、あなたも塩田武士ワールドの扉を開いてみてください。

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