中山七里さんは「どんでん返しの帝王」と称されるミステリー作家。2010年に『さよならドビュッシー』でデビューして以来、音楽を題材にした作品や社会問題を扱った小説など、多彩な作品を生み出しています。今回は、数多くの中山七里作品の中から特におすすめの5作品をご紹介します。
ミステリー好きな方はもちろん、普段あまり小説を読まない方にも、中山七里さんの作品は読みやすさと展開の面白さで人気です。特に序盤からフル回転で読者を引き込む力があり、伏線回収の見事さは多くの読者を魅了しています。
中山七里の魅力とは?
読みやすさと巧みな伏線
中山七里さんの作品の最大の魅力は、その読みやすさにあります。一般的なミステリー作品は序盤から終盤にかけて徐々に盛り上がっていく構成が多いですが、中山作品は序盤からフル回転で読者を引き込みます。
特に伏線の張り方と回収の仕方が見事で、読み進めるうちに「あの事がここに繋がっているのか!」と思わず声を上げたくなるような瞬間が必ずあります。これが中山作品の醍醐味と言えるでしょう。
『さよならドビュッシー』では、作者自身が「韓流ドラマのようなアップダウンのあるストーリー展開」を意識したと語っています。ミステリーを普段読まない層でも入りやすい工夫がされているのです。
社会問題を鋭く描く視点
中山七里さんのもう一つの特徴は、社会問題を鋭く描く視点です。『護られなかった者たちへ』では生活保護制度の問題点を、『テミスの剣』では冤罪をテーマに物語が展開します。
単なるエンターテイメントにとどまらず、現代社会の抱える問題に切り込んでいく姿勢は、読者に深い余韻を残します。それでいて説教臭くならず、あくまでもミステリーとして楽しめる絶妙なバランス感覚も中山作品の魅力です。
シリーズ作品の楽しみ方
中山七里さんには複数のシリーズ作品があります。ピアニストの岬洋介が活躍する「岬洋介シリーズ」、弁護士の御子柴礼司が主人公の「御子柴弁護士シリーズ」、刑事犬養隼人が登場する「刑事犬養隼人シリーズ」などがあります。
シリーズものは、登場人物の成長や変化を追いながら読み進められる楽しさがあります。また、中山作品の世界観はつながっていることが多く、別の作品の主人公がちょっとした脇役として登場することもあり、ファンにはたまらない仕掛けとなっています。
中山七里おすすめ小説5選
『さよならドビュッシー』—デビュー作にして名作
『さよならドビュッシー』は中山七里さんのデビュー作で、第8回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した作品です。ピアニストの岬洋介が主人公となり、音楽の力を武器に事件を解決していきます。
この作品は2010年に発売され、25万部を突破する大ヒットとなりました。2013年には映画化、漫画化され、2016年にはテレビドラマ化もされています。
作品の魅力
『さよならドビュッシー』の魅力は、なんといっても音楽と推理が見事に融合している点です。クラシック音楽の知識がなくても十分楽しめるよう配慮されていますが、音楽好きならより深く物語を味わえるでしょう。
主人公の岬洋介は、天才的なピアニストでありながら、過去のトラウマから演奏することができなくなっています。そんな彼が音楽教室で起きた殺人事件に巻き込まれ、真相を追っていく過程で自身の心の傷と向き合っていきます。
読者からは「読み進めていくうちに大きくなっていく違和感が、最後にスッキリと解消される感じが良かった」「音楽のことが全くわからなくても、この世界にどっぷり浸れる」といった声が寄せられています。
読者の声
「ドビュッシー好きにはたまらない」「音楽シーンも引き込まれた」という声がある一方で、「ミステリーとしては中途半端」という意見もあります。しかし、多くの読者が「一気に読むことができた」と評価しており、読みやすさは折り紙付きです。
『護られなかった者たちへ』—社会派ミステリーの傑作
『護られなかった者たちへ』は、東日本大震災から9年後の仙台を舞台にした社会派ミステリーです。福祉保険事務所の課長が餓死体で発見されるという衝撃的な事件から物語は始まります。
この作品は2021年に映画化され、大きな話題となりました。
作品の魅力
『護られなかった者たちへ』の最大の魅力は、生活保護制度という現代日本の抱える問題を鋭く描き出している点です。「誰のための生活保護なのか」という問いかけは、読者の心に深く刻まれます。
物語の中では、生活保護で暮らす母子家庭の母親が、子供を塾へ行かせるためにアルバイトをしていたことが発覚し、生活保護を打ち切られるという出来事が描かれます。その後、思い悩んだ母親が子供を殺害し、心中するという悲劇が起こります。
この作品には、貧困家庭、教育格差、社会福祉制度、生活保護の不正受給問題、犯罪の被害者と加害者との関係など、現代日本が抱える様々な問題が詰め込まれています。
読者の声
「日本の福祉制度に問題を投げかけた社会派ミステリー」「全員に一度は読んでほしい一冊」という高評価が多く、社会問題を考えるきっかけとなる作品として支持されています。
『連続殺人鬼カエル男』—衝撃のサスペンス
『連続殺人鬼カエル男』は、2011年に発表されたサイコスリラーです。「カエル男」と呼ばれる連続殺人鬼が、被害者の苗字が「あ」「い」「う」と順番に始まる人物を標的にするという猟奇的な事件を描いています。
この作品も『このミステリーがすごい!大賞』の最終候補に選出された中山七里さんの代表作の一つです。2020年には映像化もされました。
作品の魅力
『連続殺人鬼カエル男』の魅力は、そのスピード感ある語り口と猟奇的な犯行の描写です。幼子がカエルを苛めるように幼稚で残虐な犯行を繰り返す「カエル男」の正体に迫るサスペンスは、読者を最後まで離しません。
物語は「序破急」のリズムで展開し、特に序盤からの勢いある展開が特徴です。また、事件の三重構造という複雑な仕掛けも見どころの一つです。
読者の声
「カエル男の猟奇性、気味の悪さの演出力が素晴らしい」「事件の三重構造が良かった」という評価がある一方で、「アクションシーンが無駄に長く退屈」という意見もあります。好みが分かれる作品ですが、サスペンス好きには特におすすめです。
『贖罪の奏鳴曲』—法廷ミステリーの決定版
『贖罪の奏鳴曲』は、2011年に発表された「御子柴弁護士シリーズ」の第1作目です。破格の弁護士報酬を要求する悪辣弁護士・御子柴礼司が主人公で、物語は彼が死体遺棄をするシーンから始まります。
この作品は「御子柴弁護士シリーズ」の中でも特に人気が高く、法廷ミステリーの傑作として評価されています。
作品の魅力
『贖罪の奏鳴曲』の最大の魅力は、主人公の御子柴弁護士の人物像です。冒頭で死体遺棄をする姿が描かれ、破格の弁護士報酬を要求する悪辣な弁護士として登場しますが、物語が進むにつれて彼の生い立ちや信念が明らかになり、読者の印象が大きく変わっていきます。
また、法廷シーンの描写も見事で、法廷劇の面白さとミステリーの魅力が見事に融合しています。「めちゃぐちゃ爽快」と評される法廷バトルは、読者を熱中させずにはおきません。
さらに、身体障害者が登場する場面では「障害者も人である。だから、犯罪も犯すし純粋でない人もいる」という重い言葉が投げかけられ、読者の思い込みや偏見を揺さぶります。
読者の声
「中山作品の中でも珠玉の作品」「無我夢中になって読んでしまった」という高評価が多く、特に主人公の印象が最初と最後で大きく変化する点が魅力として挙げられています。
『おやすみラフマニノフ』—音楽と謎が融合した一冊
『おやすみラフマニノフ』は、『さよならドビュッシー』に続く「岬洋介シリーズ」の第2作目です。2010年に発表され、ピアニスト岬洋介の活躍を描いています。
この作品も音楽と推理が融合した中山七里さんならではの魅力にあふれています。
作品の魅力
『おやすみラフマニノフ』の魅力は、ラフマニノフの難曲を背景にした音楽描写の豊かさです。著者は「いっさい音楽を演奏しない」と言いながらも、作品のあらゆるページに音があふれていると評されるほど、音楽への深い造詣が感じられます。
また、「岬洋介シリーズ」の2作目として、主人公の成長や変化も見どころの一つです。『さよならドビュッシー』で心の傷を負った岬が、どのように成長していくのかを追いかける楽しみもあります。
読者の声
「どのページにも音があふれている」「クラシックに疎くても楽しめる」「寝食忘れて読みふけった」など、音楽の知識がなくても楽しめる作品として高く評価されています。
中山七里作品を読む順番
シリーズ別おすすめ順
中山七里さんのシリーズ作品は、基本的に発表順に読むのがおすすめです。各シリーズの主要作品を表にまとめました。
シリーズ名 | 第1作 | 第2作 | 第3作 |
---|---|---|---|
岬洋介シリーズ | さよならドビュッシー | おやすみラフマニノフ | いつまでもショパン |
御子柴礼司シリーズ | 贖罪の奏鳴曲 | 追憶の夜想曲 | 恩讐の鎮魂曲 |
刑事犬養隼人シリーズ | 切り裂きジャックの告白 | 七色の毒 | ハーメルンの誘拐魔 |
「岬洋介シリーズ」は音楽ミステリーとして人気が高く、2021年には最新作『おわかれはモーツァルト』も発売され、シリーズ累計162万部を突破する大ヒットとなっています。
「御子柴弁護士シリーズ」は法廷ミステリーの傑作として評価が高く、2023年3月には最新作『殺戮の狂詩曲』が発売されました。
「刑事犬養隼人シリーズ」は警察小説として人気があり、刑事としての矜持と組織の論理の間で揺れ動く主人公の姿が描かれています。
単発作品のおすすめ
シリーズ作品以外にも、中山七里さんには魅力的な単発作品がたくさんあります。特におすすめなのは以下の作品です。
『夜がどれほど暗くても』は、犯罪加害者の家族という視点から描かれた作品で、犯罪加害者としての生き方や息子への懺悔がテーマとなっています。読後感も良く、ミステリーファンだけでなく、幅広い読者におすすめできる作品です。
『テミスの剣』は冤罪をテーマにした作品で、警察官としての矜持と組織の論理の狭間でもがく主人公の姿が描かれています。「正義とは何か」という問いかけが読者の心に響く作品です。
『アポロンの嘲笑』は東日本大震災と原発事故をテーマにしたサスペンスで、自分の命以上に大事な家族という存在、そして自分という存在もまた家族にとっては大切な存在であるという「生への執着」が描かれています。
中山七里作品の映像化作品
映画化された作品
中山七里さんの作品は多数映画化されています。代表的なものをいくつか紹介します。
『さよならドビュッシー』は2013年に映画化され、主演は多部未華子さんと綾野剛さんが務めました。音楽と推理が融合した作品として、原作ファンからも高い評価を得ています。
『護られなかった者たちへ』は2021年10月に映画化され、主演は佐藤健さんが務めました。社会派ミステリーとして話題となり、生活保護制度の問題点を広く知らしめる契機となりました。
『連続殺人鬼カエル男』も2020年に映像化され、猟奇的な連続殺人事件を描いたサイコスリラーとして注目を集めました。
ドラマ化された作品
中山七里さんの作品はドラマ化も多く、2016年には『さよならドビュッシー』がテレビドラマ化されました。
また、「御子柴弁護士」シリーズも2020年にドラマ化され、法廷ミステリーとして人気を博しました。主演は玉木宏さんが務め、悪辣弁護士の御子柴礼司を見事に演じました。
「作家刑事毒島」シリーズも2020年にドラマ化され、作家でありながら刑事としても活躍する主人公の姿が描かれました。
中山七里さんの作品は映像化に適した要素が多く、今後も多くの作品が映像化されることが期待されています。
まとめ:あなたにぴったりの中山七里作品
中山七里さんの作品は、読みやすさと巧みな伏線、社会問題を鋭く描く視点が魅力です。音楽ミステリーの『さよならドビュッシー』、社会派ミステリーの『護られなかった者たちへ』、サイコスリラーの『連続殺人鬼カエル男』、法廷ミステリーの『贖罪の奏鳴曲』、音楽と謎が融合した『おやすみラフマニノフ』と、様々なタイプの作品があります。あなたの好みに合わせて、ぜひ中山七里ワールドを堪能してみてください。